
声という人間の楽器と、大編成の生きたジャズ楽器。そのハーモニーが互いを引き立て合い、空間を満たす至福の瞬間
text = Hiroko Otsuka
10度のグラミー賞に輝く地球上最高のヴォーカル・グループ 、テイク6と、世界の名門ビッグバンドや管弦楽団を率いて活躍するジャズ作曲家、挾間美帆率いる、日本のジャズ・オーケストラが史上初の共演を果たす。独自のハーモニーを生み育てながら、並外れた才能で世界の大きな舞台を沸かせる両者のステージは、コラボという枠を超えて、新しい風景を提示する場になるだろう。
テイク6は、ア・カペラで歌われた1988年のデビューアルバム『テイク6』をリリースするやいなや、高い評価を受け、「ベスト・ソウル・ゴスペル・パフォーマンス」と「ベスト・ジャズ・ヴォーカル・パフォーマンス」2部門のグラミー賞を受賞。それ以降彼らは一度も勢いを緩めず活動している。
アルヴィン(バス)、クリスチャン(バリトン)、クロード、デイヴィッド、マーク、ジョーイ(テナー)、6人による精緻に調整されたヴォーカル・オーケストラは、その高度なハーモニーゆえに、ルーツであるゴスペル・ファンのみならず、演奏家や音楽の高い知識を持ったファンに熱狂的に受け入れられてきた。それでも彼らは新作リリースのたびにファンを増やし、ストレート・アヘッド・ジャズからR&B、ドゥーワップからブルースまで、ジャンルを巧みに融合させていった。そして現在は、ポップミュージックや、クラシックなどこれまでになかったシーンでヴォーカルの可能性を広げている。今年7月に発表されたドミニカのシンガーソングライター、サンジ・ヒメネスとのコラボレーションは、現在巨大なマーケットを持つラテン音楽シーンに、テイク6の存在を強く印象付けた。スペイン語圏の現代ポップスに溶け込んだ彼らの見事なヴォーカル・ハーモニーは、YouTubeやSNS上で大きな反響を呼んでいる。
さらに近年のテイク6は、室内楽団やビッグバンドとの共演を世界中で展開している。アメリカでは各州の歴史あるオーケストラとツアーを行い、今年7月は、カナリア諸島国際ジャズフェスティバルで、スージー・コリアーの指揮のもとグラン・カナリア・フィルハーモニー管弦楽団と共演し、チェスキー・クルムロフ国際音楽祭では、歴史的なチェコのビッグバンドとの共演も行なったばかりだ。
アメリカ名門オーケストラの一つ、ボストン・ポップス・オーケストラとの2024年の共演、「Feels Good」で聴けるのは、まるでオーケストラと対話しているかのようなヴォイスの音像だ。ふと立ち上がってくるフルートが声と重なり、次にはオルガンの音色と重なって、その重なりがどんどん動いていく。この曲では後半のR&Bらしいパートも合わさって躍動感あるステージが繰り広げられている。
ドイツのバイエルン州のオーケストラ、ニュルンベルク交響楽団との共演、「Lullaby with Nürnberger Symphoniker」では、声がストリングスの上に浮かび上がってくる瞬間がある。6人のヴォイスが静寂の中から次第に楽器と溶け込む景色は、息を飲むほど美しい。
彼らは観客とのコミュニケーションを絶やさないアーティストで、エンターテイメント性に富んだパフィーマンスにも定評がある。「私たちはお互いを深く思いやるという意味で家族だ」と語るテイク6は、固い絆で結ばれたチームワークを通して ダンスや、振り付け、仕草ひとつとっても全てに磨きをかけている。またテイク6は、セント・ジュード小児研究病院への寄付活動を通じた社会的な活動にも積極的だ。彼らの音楽がこれほど長く続いている理由は、チームを愛する気持ちと社会への温かい眼差しだということがステージからもよく伝わってくる。テイク6の歴史を振り返ると、彼らはルーツのゴスペルからメジャーに躍り出てシーンを柔軟に横断してきたアーティストだった。
こうしたボーダレスな活動のあり方は挾間美帆も同様で、ビッグバンドやクラシックの世界を行き来しながら、大きな編成の音楽=ラージ・アンサンブルの魅力を伝えてきた。挾間美帆が世界を舞台に活動するようになって以来、オーケストレーションを導入するアーティストがどんどん増えてきたように思う。オーケストラがクラシックのジャンルで括られた時代はすでに過ぎ、ジャズシーンで支持を集めるジェイコブ・コリアーや、ルイス・コール、スナーキー・パピーといった全方位的視野のアーティストが、次々とオーケストラを率いて作品やライブを繰り広げている。
これらのアーティストがこぞって共演するメトロポール・オルケストの客演常任指揮者として、さらにデンマークラジオ・ビッグバンド(DRBB)の首席指揮者として活躍する挾間美帆だが、フレンチホルン、ストリングスやビブラフォンも含む13人編成で構成された自身のオーケストラ、m_unitも世界的に高い評価を得ており、2018年の『ダンサー・イン・ノーホエア』は第62回グラミー賞最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム部門にノミネートされた。
挾間美帆が、m_unitで提示したのは、私たちが潜在的に持っているジャズのイメージの色だけでなく、弦楽器や木管楽器など繊細でナチュラルな色のパレットも使いながら、色を重ねたり、単色で強く際立たせたりして描いたスリリングで複雑な世界だった。その世界の中には、クラシックの構成原理や、ジャズのイディオム、さらにポップス・ダンスミュージックの要素も絶妙に組み込まれている。複雑な世界でありながら、聴いている私たちが穏やかに曲の中に浸り、心にぼっと火をつけてくれるような体験を得られるのは、楽器が歌っているような感覚がそこにあるからだろう。
特にリード楽器の人肌を感じる音色は、メトロポール・オルケストとの『ザ・モンク:ライヴ・アット・ビムハウス』でもよく感じ取れる。「Ruby My Dear」の冒頭で聴ける複数のクラリネットを始め、メロディと装飾部分のハーモニーがとても豊かで重層的だ。最新作『ビヨンド・オービット』の「”Exoplanet Suite” Mov.2 Three Sunlights 」の穏やかなパートも、声楽的な印象を受ける。
今回は、重層的なホーンに、ピアノ、ギター、ベース、ドラムスが加わった17人編成でのジャズ・オーケストラということで、m_unitとは違った編成も大きなポイントになるだろう。オーガニックな色合いを持つ楽器の要素はテイク6のヴォイスに委ね、ホーンセクションは、より一層空間の奥行きを感じ取れるような配置になるかもしれない。さらにジャズのスウィング感、白熱のソロパートも味わえるジャズフェスらしい醍醐味も味わうことができそうだ。おそらくそんなジャズ・オーケストラのバートと、テイク6のエンターテインメント性にフォーカスしたア・カペラ・ステージといったように、観客を飽きさせない構成も練られているだろう。楽器を声部のように扱う挾間美帆の手法がテイク6のヴォイスを引き立て、また逆にテイク6がオーケストラを新たな次元に導くようなステージ。その景色はきっと想像を超えたものなるはずだ。
テイク6のツアーでのおなじみの冒頭曲「Come on」や、長く歌い継がれてきた深い歴史を持つ黒人霊歌「Wade in the Water」を、会場一体となって”ナナナナ~”とコール&レスポンスする光景も今から目に浮かぶ。生楽器と人間の声という究極のオーガニックな編成によって、声や楽器はどんな響きを見せてくれるだろう。動きのある楽曲では、テイク6のどの声部が、どの楽器とつながって、進行していくのか。静かな余韻のあるパートでは、楽器と音のハーモニーが会場の空間の中でどのように立ち上がって、溶け込んでいくのか。会場で感じるそれらの音が空気の震えとなって、どのように場を響かせるのか。この場でしか得られない体験になることは間違いない。

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LIVE INFORMATION
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Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2025
2025 9.27 sat., 9.28 sun.
Open12:00pm Start1:00pm
https://bluenotejazzfestival.jp
★テイク6 with 挾間美帆ジャズオーケストラは 9.27 sat. に出演!
▶︎9.27 sat.
NORAH JONES
TAKE 6 with MIHO HAZAMA Jazz Orchestra
DON WAS & THE PAN-DETROIT ENSEMBLE
AMARO FREITAS
VALERIE JUNE
▶︎9.28 sun.
NE-YO
TOWER OF POWER
DAICHI MIURA
INCOGNITO
SOIL&”PIMP”SESSIONS with special guest RYOSUKE NAGAOKA
大塚広子(おおつか・ひろこ)
DJ、ライター、プロデューサー、二児の母。新聞、音楽/オーディオ誌、ライナーノーツ等に執筆。ジャズレーベル公式作品の選曲多数。FUJI ROCK FESTIVAL、東京JAZZ、Blue Note JAZZ FESTIVAL等出演。自身のレーベルKey of Life+主催。