TOKYO・ARIAKE ARENA
2025 9.27 SAT., 9.28 SUN.
2025 9.27 SAT., 9.28 SUN. TOKYO・ARIAKE ARENA

【FEATURES】AMARO FREITAS

アフロ・ブラジリアンの音楽を刷新しつづける鬼才ピアニスト、アマーロ・フレイタスが作る圧巻のパフォーマンス空間

text = Masaaki Hara
live photo = Tsuneo Koga

 

 ピアニストのアマーロ・フレイタスは、パーカッショニスト、ビリンバウ奏者のナナ・ヴァスコンセロスと同じ、ブラジル北東部ペルナンブコ州の港湾都市レシフェの出身である。そして、ヴァスコンセロスがそうであったように、フレイタスもコンテンポラリーなジャズを中心とした世界で活動しながら、アフロ・ブラジリアンとしての音楽的なアイデンティティを探求してきた。

 チック・コリアを入口に、多くのジャズ・ピアニストから影響を受けてきたフレイタスは、レシフェのジャズクラブで初めてジャズを演奏したときから、彼のスタイルと言えるパーカッシヴな演奏を試みていた。セロニアス・モンクやセシル・テイラーにインスパイアされたというそのスタイルは、ブラジル音楽からミニマル・ミュージックまで、さまざまリズムの探求によって習得されたものでもあった。トリオを組んでからは、ブラジル音楽をどう扱うのかを試行錯誤する中で、多様なルーツを持つ現在のアメリカのジャズ・ミュージシャンたちが自分の文化圏の音楽を取り入れる姿勢に勇気づけられてきたという。こうして、フレイタスのピアノ・トリオの演奏は、ジャズはもとより幅広いリスナーを魅了するようになった。

 フレイタスのトリオは、三部作のアルバム『Sangue Negro』、『Racif』、『Sankofa』をリリースしている。それぞれに、伝統的なジャズ、ペルナンブコ州に対する詩情、アフリカン・ディアスポラがテーマとしてあった。それらは、現在もフレイタスの表現の根幹にあるテーマでもある。そして、この三部作でトリオの活動に一端、区切りを付けたフレイタスは、新たに二つのことに取り組んだ。

 一つはピアノの弦に様々なものを挟んで音色を変えるプリペアード・ピアノへのアプローチで、もう一つは熱帯雨林アマゾンの先住民族の文化と音楽に触れることだった。ジョン・ケージが始めた現代音楽の表現と、プリミティヴな音楽という対照的な世界に関心を寄せた。当初フレイタスは別々に興味を抱いていたが、先住民族の儀式に参加して生活を共にする体験を経て、この二つから新しい何かが生まれる予感を得た。そのことから、初のソロ・アルバム『Y’Y』が制作された。

 『Y’Y』の前半はプリペアード・ピアノを使ったソロだが、ケージのようにフォークやナイフなどの金属製のものは使わず、オーガニックな素材で雨音や電子音のような音を出した。それによって、湿度の高いアマゾンを思わせるサウンドスケープやヴァスコンセロスに捧げるパーカッシヴな響きなどが生み出されていった。ピアノだけで多様な音色を出し、幾層もの豊かなリズムを作った。後半は、シャバカ・ハッチングスやジェフ・パーカー、ブランディー・ヤンガーらとのデュオで、アフリカン・ディアスポラの出会いをテーマにそれぞれの音楽的なルーツに向き合った演奏が録音された。

 『Y’Y』は、これまでのピアノ・トリオとは異なる世界を生み出し、フレイタスの音楽を次のステージへと導いた。リリース後に見た新たなトリオの演奏は、『Y’Y』の前半のソロをトリオで展開してみせた。「そこからある種『Y’Y』の新しいヴァージョンというのを作り出していきたい」と前回のインタヴューで話していたが、そのことが感じ取れる演奏だった。あれから、早くも一年近くが経とうとしている。今回も同じトリオでの演奏になる。当然ながら、『Y’Y』からさらにヴァージョン・アップされた演奏が期待される。

 コンサート・ホールでのソロ・ピアノの演奏と、半ば野外のような開放的なホールとブルーノート東京でのトリオの演奏をこれまでに見る機会があった。何れもアルバムよりダイナミズムと強度がある演奏で、同時に静かな瞬間とのコントラストがより鮮やかに感じられた。如何なる環境であっても、フレイタスの演奏にはブレがなく、また観客を楽しませることを忘れない。シリアスにプリペアード・ピアノを演奏するのではなく、鳥の鳴き声を模した表現に観客も誘い込み、会場全体で一つのサウンドスケープを作っていく。それが、フレイタスのライヴの魅力でもある。「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2025」ではどのようなパフォーマンス空間が創出されるのか、楽しみでならない。

 
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LIVE INFORMATION
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Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2025
2025 9.27 sat., 9.28 sun.
Open12:00pm Start1:00pm
https://bluenotejazzfestival.jp
★アマーロ・フレイタスは 9.27 sat. に出演!

▶︎9.27 sat.
NORAH JONES
TAKE 6 with MIHO HAZAMA Jazz Orchestra
DON WAS & THE PAN-DETROIT ENSEMBLE
AMARO FREITAS
VALERIE JUNE

▶︎9.28 sun.
NE-YO
TOWER OF POWER
DAICHI MIURA
INCOGNITO
SOIL&”PIMP”SESSIONS with special guest RYOSUKE NAGAOKA

原 雅明(はら・まさあき)
文筆家、選曲家、プロデューサー。レーベルringsでレイ・ハラカミの再発等に携わり、リスニングや環境音楽に関連する企画、ホテルの選曲も手掛ける。早稲田大学非常勤講師。新著『アンビエント/ジャズ――マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜』。