世界最強のインストバンド スナーキー・パピーが
特別なメンバー構成で臨むファン垂涎のライブ
text = Mitsutaka Nagira
久々の開催となるブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパン。豪華なラインナップに目を奪われるが、その中でもスナーキー・パピーの名前があることは重要だ。
今やグラミー賞受賞五回。世界最高のインスト・バンドとして君臨し、世界中をツアーし、成功を収めている。リーダーのマイケル・リーグを中心に結成されたスナーキー・パピーには数多くのミュージシャンたちが在籍してきた。エリカ・バドゥ、マーカス・ミラー、カーク・フランクリン、デヴィッド・クロスビー、マイケル・マクドナルドなどのトップ・アーティストたちの作品に貢献してきた敏腕たちがこのバンドを形成している。
そもそもスナーキー・パピーはマイケル・リーグによりテキサスのダラスで結成されている。彼らが参照したのはロイ・ハーグローヴが率いていたRHファクター。ディアンジェロやエリカ・バドゥらの作品を支えていたロイが自身のジャズ、ファンク、ヒップホップ、R&Bなどで培ったあらゆる経験を融合させたRHファクターはその後のジャズの流れを変えるほどの大きな影響力を持った偉大なバンドだった。例えば、RHファクターのデビュー作『Hard Groove』にインスピレーションを得て制作されたのがロバート・グラスパーの『Black Radio』だったことからもその意義がわかるだろう。そんなRHファクターの後継とも言えるのがスナーキー・パピーだった。
なぜならダラスで育ったロイはダラスのミュージシャンたちと共にRHファクターを立ち上げていたからだ。鍵盤奏者のボビー・スパークス、ドラマーのジェイソンJTトーマス、そして、鍵盤奏者のバーナード・ライト。RHファクターの初期メンバーだった彼らはその後もダラスで活動をつづけ、後にマイケル・リーグをはじめとしたスナーキー・パピーのメンバーたちを育てることになり、後にスナーキー・パピーに加入し、その活動を支えるようにもなった。
そんな経緯を持つスナーキー・パピーだけあって、RHファクターの『Hard Groove』同様に様々なミュージシャンが入れ替わり立ち替わりで演奏している。最新作の『Empire Central』にクレジットされているミュージシャンだけでも19人。過去に在籍していたメンバーを加えると20人を超える。そのメンバーがアルバムでは曲ごとに、ライブではツアーごとに入れ替わる。おそらく過去に録音物で演奏したことがある鍵盤奏者だけで6人、ドラマーだけでも5人。しかし、スナーキー・パピーには一軍や二軍、サブは存在せず、誰が入ってもスナーキー・パピーだし、むしろ誰かが入れ替わったスナーキー・パピーだからこそ聴くことができるサウンドがある。しかも、そこにヴォーカリストを追加した『Family Dinner』シリーズをこれまでに2作、オランダの名門メトロポール・オーケストラとのコラボが1作を発表していて、どちらも共演する相手の魅力を最大限に発揮させるコラボレーション巧者ぶりを見せつけている。つまりスナーキー・パピーはフレキシブルで常に抜群の安定感があり、同時に毎回魅せ場を作ることができる爆発力も華やかさも兼ね備えている。こんなバンドはスナーキー・パピー以外には存在しない。
そんな彼らがブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパンに向け、面白い編成を組んできた。
まず最注目はドラマーだ。今回同行するニッキ・グラスピーはビヨンセの(女性だけの)バックバンドのメンバーでもあった敏腕だ。スナーキー・パピーの録音には参加経験がないが、ゴスペル出身で強力なグルーヴに定評のある彼女の存在がこれまでのスナーキー・パピーの来日公演とは異なる化学反応を呼ぶはず。
また鍵盤奏者はレギュラーメンバーのボビー・スパークス、それに加えイギリスからビル・ローレンスも駆けつける。ゴスペルやファンク、ヒップホップの要素を取り入れたイメージが強いスナーキー・パピーだが、ビル・ローレンスは少し異質で、エレクトロニックミュージックやミニマルミュージックの影響を消化した独自のスタイルでスナーキー・パピーの作品を更なる高みへと導いてきた。一方、RHファクターのメンバーで、コンテンポラリーゴスペルの最重要人物カーク・フランクリンの作品にも関わってきたボビー・スパークスはクラヴィネットやハモンドオルガンを駆使したゴスペル直系のスタイルで知られる。全く異なる個性を持つビルとボビーが並ぶ編成でのライブは見逃せない。
もうひとつ、ヴァイオリンのザック・ブロックの参加も貴重だ。レコーディングやアメリカでのツアーではよく参加しているが、ワールドツアーでの、しかも、日本でのライブでの彼の参加は珍しい。世界中のあらゆるジャンルを飲み込むスナーキー・パピーの音楽において、リズムの面ではパーカッションが重要だが、ザックのヴァイオリンも大きく貢献してきた。ザック・ブロックが参加しているということは、おそらくこれまでの日本公演では見られなかったスナーキー・パピーが見られることになるはずだ。
そして、メンバーも変われば、演奏も変わるし、もしかしたらレパートリーも変わってくるだろう。来日公演では全公演を異なるセットリストで行う彼らだけにこのメンバーでどんな選曲をするのか、その面でも楽しみは尽きない。
ちなみにブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパンへの出演は2015年以来。10年経ち、彼らのシーンの立ち位置は随分変わり、大きく成長してきた。その姿を見られることもまた大きな楽しみだ。
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LIVE INFORMATION
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Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2024
2024 9.21 sat., 9.22 sun.
Open12:00pm Start1:00pm
https://bluenotejazzfestival.jp
★ SNARKY PUPPY は 9.22 sun. に出演!
▶︎9.21 sat.
NAS / PARLIAMENT FUNKADELIC feat. GEORGE CLINTON / MISIA & ⿊⽥卓也BAND / TANK AND THE BANGAS / .ENDRECHERI.
▶︎9.22 sun.
CHICAGO / MARCUS MILLER / NILE RODGERS & CHIC / SNARKY PUPPY / CANDY DULFER
柳樂 光隆(なぎら・みつたか)
島根県出雲市出身 出雲高校~東京学芸大学教員養成課程卒。音楽ライター、エデュケーター、DJ、ラジオパーソナリティ。主な仕事はジャズとその周りの音楽についての執筆、インタビュー、講演、講義、企画、監修。『Jazz The New Chapter』シリーズ、雑誌、新聞などへの寄稿を中心に21世紀以降のジャズの動向を伝える活動を行っている。