オリジナル・メンバー3人にニュー・フェイス多数の新体制が示す
結成57年の誇り高きライヴ・パフォーマンス
text = Toshikazu Kanazawa
結成57年。それぞれの時代のニーズに応じてサウンド・スタイルを微妙に変化させながら、深い音楽愛と強靭な意志を持って、世界中でライヴ・パフォーマンスを展開し続けているリヴィング・レジェンド、シカゴ。彼らの8年ぶりとなる来日公演が、『Blue Note JAZZ FESTIVAL』で実現する。
50年以上も第一線で活動していれば、人気やセールスに浮沈が出るのも無理はない。初期シカゴはホーン・セクションを武器に“ブラス・ロック”の牽引役を担い、同時にベトナム反戦や公民権運動など社会不安を憂えるメッセージを携え、若い音楽ファンから熱狂的支持を浴びた。「長い夜 (25or6 to 4)」や「サタデイ・イン・ザ・パーク」といった初期代表曲は、まさに当時のシカゴ・サウンドと、バンドの勢いを象徴するものである。しかし70年代後半になると、世情も次第に安定化。音楽シーンも大衆化に向かい、耳触りの良いソフトな音を求めるようになった。その時期に生まれたのが、「愛ある別れ (If You Leave Me Now)」や「朝もやの2人 (Baby, What A Big Surprise)」といったピーター・セテラの甘い歌声をフィーチャーしたヒット・チューン。この時期のシカゴはパーカッション奏者を迎えたり、ビーチ・ボーイズとジョイント・ツアーに出たりと、音楽的軋轢を抱えながらもポジティヴな活動スタンスで好セールスを生んだ。
ところが78年初頭、リーダー格のギタリスト:テリー・キャスが拳銃事故で急死。近いタイミングで、デビュー時からのプロデューサー:ジェイムス・ウィリアム・ガルシオを金銭問題で解雇とトラブルが重なる。それによってバンド自体も危機を迎え、低迷期へと転じてしまった。
そこを救ったのが、当時まだ新進気鋭だったプロデューサー、デヴィッド・フォスターだ。併行して名ヴォーカリスト:ビル・チャンプリンの加入でヴォーカル面を強化し、「素直になれなくて (Hard to Say I’m Sorry)」「忘れ得ぬ君へ (Hard Habit to Break)」「君こそすべて (You’re the Inspiration )」とバラード・ヒットを連発。85年にはセテラがソロ独立する危機を迎えるも、新人ジェイソン・シェフを奉じて好調を堅持。“バラードのシカゴ”という新しいグループ像を確立し、新しいファン層を開拓した。だがバンド内では音楽性を巡る確執が一層深まり、90年代に入ってからはレコード会社移籍、アルバムのお蔵入りなど困難続き。書き下ろしの新曲を中心とする純オリジナル新作は、90年代、ゼロ年代、10年代で各1枚ずつに留まる。それでもリリースに漕ぎ着けたクリスマス・アルバムや新曲入りベスト、各種ライヴ盤などの企画作は、どれも好評。ツアーに対するモチベーションも高く、ライヴ・バンドとして生き延びた感がある。現時点でのオリジナル新作は、2022年リリースの通算38作目『BORN FOR THE MOMENT』だ。
長いコロナ禍を挟んで、まもなく約8年ぶりに日本へやって来る彼ら。過去十数回に及ぶジャパン・ツアーにあって、今回は最多となる10人編成でのステージが予定される。コロナ前からメンバー・チェンジが相次いだため、結成メンバーのロバート・ラム (key, vo)、リー・ロックネイン(tp, vo)、ジェームズ・パンコウ(tb)の重鎮3人を除く7人中5人が日本初登場だ。最新作以後に参加したメンバーも複数いて、日本のファンにとっては“新生シカゴ”と呼ぶに等しい状態である。ピーター・セテラ、ジェイソン・シェフ、ビル・チャンプリンといった歴代メイン・シンガーは、いずれも楽器兼任だったが、現在のニール・ドネルは独立ヴォーカリスト。ステージではギターを手にする場面もあるらしいが、ハンドマイクのシンガーによるシカゴのライヴ・パフォーマンスは、ちょっと新鮮かもしれない。
…とはいえ、ブラス・ロック期の名曲群を中心にAOR時代の人気バラードを交えたステージ構成が、大きく変わることはない。だからこそ長年のファンには、最近のチョッとした変化や新しいアレンジが際立つ。そして若いファンは、シカゴが如何にして60年近いキャリアを築いてきたか、そのプロフェッショナルなライヴの真髄、大型ロック・バンドによる生パフォーマンスの迫力を、ジックリと堪能していただきたい。
このところ、シカゴのUSツアーは、アース・ウインド&ファイアーを筆頭に、ドゥービー・ブラザーズやリック・スプリングスフィールドなどとのダブル・ビルで開催されている。ここ日本でも、08年にヒューイ・ルイス&ザ・ニュースとのジョイント・ツアーが行なわれて大評判を得た。それを考えると、ナイル・ロジャース&シック、キャンディ・ダルファー、マーカス・ミラー、スナーキー・パピーらと同じステージに立つ『Blue Note JAZZ FESTIVAL』は、共演チャンスの宝庫。それこそ「長い夜」のブラス・セクションにキャンディのファンキーなサックスが乗ったら…と、勝手な妄想を膨らませてしまう。久々の生シカゴに、楽しみが募るばかりだ。
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LIVE INFORMATION
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Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2024
2024 9.21 sat., 9.22 sun.
Open12:00pm Start1:00pm
https://bluenotejazzfestival.jp
★CHICAGOは 9.22 sun. に出演!
▶︎9.21 sat.
NAS / PARLIAMENT FUNKADELIC feat. GEORGE CLINTON / MISIA & ⿊⽥卓也BAND / TANK AND THE BANGAS / .ENDRECHERI.
▶︎9.22 sun.
CHICAGO / MARCUS MILLER / NILE RODGERS & CHIC / SNARKY PUPPY / CANDY DULFER
金澤 寿和 (かなざわ としかず)
AORやシティポップを中心に、70~80年代の都会派サウンドに愛情を注ぐ音楽ライター。現在はディスクガイド『AOR Light Mellow Premium』が進行中で、シリーズ完結編となる3冊目を準備中。ほぼ毎日更新のブログは https://lightmellow.livedoor.biz