「日本で演奏するのは、まさに僕の人生の一部」
そんなベース・マスターが、大好きなフェスへの抱負を語る
interview & text = Eisuke Sato
interpretation = Kazumi Someya
LAの自宅近くにあるスタジオでzoom取材に応じるマーカス・ミラーは、くつろぎつつも意気揚々。話の端々から、日々の音楽活動を謳歌していることが伝わってくる。ああ、永遠のナイス・ガイ! 当然、そんな彼の様に接するとこちらも心躍る。そんなマーカスはブルーノート・ジャズ・フェスティヴァルの2日目に出演するが、彼はそれをとても心待ちにしている。
――2016年のブルーノート・ジャズ・フェスティヴァルのことは覚えています? 自分のバンドで出演するだけでなく、特設ブースでトーク・ショウをやったり、それからMISIAと黒田卓也のステージ、さらにはアース・ウィンド&ファイアーのステージにも出演したりと、まさに大車輪でした。
「ああ、そうだった。別のステージに出たMISIAの方にも顔を出した。あのとき、ジョージ・ベンソンも出たよね。僕の演奏が終わった後、E.W.&F.のバーダイン・ホワイトからまだ帰らないで自分たちと一緒にやってよと、声をかけられた。そしたら、僕はE.W.&F.の曲を全部知っていて、1曲だけ入る予定がたくさん弾いちゃった。少しやりすぎたかなと反省したけど、あれは本当に素敵な時間だった。僕がE.W.&F.で弾いているなんて夢のようだった。でも、フェスティヴァルとはそういうものなんだ。他のミュージシャンを見ることができ、また共演もできてしまう。それって、最高だよね」
――フェスのトリだった、あなたも参加したE.W.&F.のライヴは、見る方にとっても本当に夢のようでした。
「フィリップ・ベイリーが横にやってきて、僕がいるとマイルス・デイヴィスが横で吹いてくれているような気持ちになると言ってくれたんだ。あのとき、E.W.&F.のメンバーたちは煌びやかな衣装を身につけていて、僕だけが地味な格好だった。それだけが、問題だったね(笑)。こういうときのために、1枚赤いシャツを鞄にいれておかなきゃと思ったっけ」
――でも、あなたのファンは、あなたがシックにまとめているのが格好いいと思っていますよ。
「そうだね。自分らしくいるのがいいよね」
――今回あなたが出演する22日はシカゴ、シック、スナーキー・パピー、キャンディー・ダルファーらが出演しますが。
「実は、昨日(8月8日)ヨーロッパのツアーを終えて帰ってきたんだ。フランスにいた際、ナイル・ロジャースとシックと一緒になった。もちろん僕はニューヨークに住んでいた頃からナイルとは旧知の関係だし、シット・インさせてもらった。まず僕のバンドが最初に演奏し、その後にナイル・ロジャーズたちが出たんだ。もちろん、一緒にやったときにはもうパーティ状態だった。スナーキー・パピーやキャンディ・ダルファーももちろん顔見知り。もうこれは、大きな家族という感じのラインアップだね」
――あなたはスナーキー・パピーのメンバーたちのバンドであるゴースト・ノートの新作『マスタード・オニオンズ』で1曲ゲスト入りしていますよね。
「あ、それ聞いた? 僕はまだ聞いていないんだ。このインタヴューが終わったら、すぐにダウンロードして聞くね」
――8月には、アメリカでツアーもします。9月に来日するバンド・メンバーは、それと同じ顔ぶれでしょうか。
「うん、そのバンドで行くよ。ラッセル・ガンはブランフォード・マルサリスの(ヒップホップ活用プロジェクトである)バックショット・ルフォンクのメンバーだったこともある、イケてるトランペット奏者だ。サックスのドナルド・ヘイズはコンテンポラリー・ゴスペルの世界で有名、バンドにソウルフルな味を加えてくれる。キーボードのザビエル・ゴードンはアトランタ在住だ。まだ知られていないかもしれないが、彼を聞いたらみんな気にいると思う。そして、ドラムはアンワー・マーシャル。30歳ちょいの彼はフィラデルフィアから来て、父親はR&Bのベース・プレイヤーなんだ。それもあってか、彼は昔のファンク曲をよく知っている。彼は長い間オルガン奏者のジョーイ・フランチェスコ(2022年に死去)と演奏していた。だから、アンワーは伝統的なジャズのスタイルを演奏することもでき、貴重な存在なんだ。ここのところはこの顔ぶれでやっていて、本当にいい感じになっているよ」
――それは、楽しみです。
「そして、ブルーノート・ジャズ・フェスティヴァルのために、スペシャル・ゲストも同行させようと思っている。まだ、名前は秘密だけどね」
――ラッセル・ガンの前はマーキス・ヒルを起用したりしていて、あなたは日々優秀な人材に目を向けていると思います。そこでお尋ねしたいのですが、この人は自分のバンドに入れるとか、彼とはやってみたいとか思わせる、そういう条件とはどんなものでしょうか?
「僕自身がいろいろなスタイルをやりたい人間なので、ファンク的な部分とジャズ的な部分の両面をこなせることを求める。それぞれちょっとづつという人はいんるんだけど、それらを理解しがっつり持ち合わせている人は少ない。あとは、他の演奏者の音をしっかり聴く人。その態度の重なりこそが、バンド総体のヴァイブレーションに繋がってくる。自分のことばかりというのは駄目。僕はグループとしての音作りをとても意識しているんだ」
――ツアーを続けていくうえで、新鮮さを持ち続ける秘訣のようなものはあったりしますか?
「新鮮さを保ち続けるためにできることはいくつかある。一つは新しい曲をツアーの最中に持ってくること。それは1曲ではなく2、3曲だったりすることもある。サウンド・チェックでリハーサルするわけだけど、バンドは次週からこの曲を演奏するのかなと思っているところ、今夜演奏するからと言って皆んなを驚かすんだ。でも、クリエイティヴな音楽家はそういうサプライズに挑戦する必要があるし、ちゃんとこなすものさ」
――ジョナサン・バトラーの故郷である南アフリカで録音された新作『Ubuntu』をプロデュースしたり(スティーヴィー・ワンダーも1曲参加)、サウンドトラックの『Safety』や『Candy Cane Lane』を作ったりといろいろあなたは制作しています。ですが、ファンとしてはそろそろオリジナル・アルバムを受け取りたいと思っています。
「皆にそう言われている。もちろん取り掛かっていて、来月スタジオに入って録音するのでもうちょっと待っててね」
――ところで、デイヴィッド・サンボーンがなくなってしまいましたが……。
「皆と同じように僕にとってもいまだ辛い事実だ。『サタデイ・ナイト・ライヴ』というテレビ番組でデイヴィッド・サンボーンと一緒にやるようになったのは1979~80年の2年間だったと思うんだけど、その際に彼の吹く音が一音だけ聞こえても皆エっという感じで振り返るほど、エモーショナルかつ個性的な演奏音だった。それが縁で招かれて彼のバンドに入るようになり、彼は僕の作曲を取り上げてくれるようになった。その最初のアルバムは、『夢魔』(1980年)だった。それから僕たちの関係は深くなり、来日も何度かしているし、いまだ彼がここにいないというのが信じられない。気持ちの整理がつかないままに、デイヴィッドの音楽を聴いたりしている」
――サンボーンの遺作『タイム・アンド・ザ・リヴァー』(2015年)は、あなたとのコラボレーション作で本当に良かったと思います。
「ありがとう。僕自身の活動が忙しくて、デイヴィッドとはずっと仕事ができずにいたところ、あのアルバムで久しぶりに一緒にレコーディングができた。それは、まるで心地の良いコートを羽織ったみたいだった。あの『タイム・アンド・ザ・リヴァー』には素晴らしいメロディの曲があって、それは(フランス人シンガー・ソングライターの)アリス・ソイヤーの曲だった。ぼくはそのとき彼女のことを知らなかったんだけど、2人はその後結婚した。人生最後の時間を彼女と過ごすことができたのは、すごく良かったと思っている。アリスは本当に素晴らしい女性なんだ」
――最後に、ブルーノート・ジャズ・フェスティヴァルへの抱負を語っていただけますか。
「とっても、楽しみにしている。日本で演奏するというのは、まさに僕の人生の一部になってもいるからね。初来日は19歳のとき。デイヴ・グルーシンらと、渡辺貞夫さんとやったんだ。その後は、ブレッカー・ブラザーズで行ったり、若い人は知らないかもしれないけどマイルス・デイヴィスと日本でやったこともあった。さらに、(彼も一員のブラック・ポップ・バンドである)ジャマイカ・ボーイズのライヴがあったり、もちろん自己グループでもたくさん行っているし……。これだけ数多のストーリーを一緒に紡いできた日本の皆さんとの時間は、僕のなかでかけがえのないものになっている。今回のブルーノート・ジャズ・フェスティヴァルには、僕のことを知った際は10代だった方が母親となり子供を連れてくるようなこともあるんじゃないかな。それで、一緒に育ってきたという感覚を噛み締めることができたなら最高だ。とにかく、一緒に楽しもうね!」
―――――――
LIVE INFORMATION
―――――――
Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2024
2024 9.21 sat., 9.22 sun.
Open12:00pm Start1:00pm
https://bluenotejazzfestival.jp
★マーカス・ミラーは 9.22 sun. に出演!
▶︎9.21 sat.
NAS / PARLIAMENT FUNKADELIC feat. GEORGE CLINTON / MISIA & ⿊⽥卓也BAND / TANK AND THE BANGAS / .ENDRECHERI.
▶︎9.22 sun.
CHICAGO / MARCUS MILLER / NILE RODGERS & CHIC / SNARKY PUPPY / CANDY DULFER
佐藤 英輔(さとう えいすけ)
1986年から、音楽の文章を書く仕事に。ライヴ好きで、ブログは、https://eisukesato.exblog.jp。9月20日にリーットーミュージックから、「越境するギタリストと現代ジャズ進化論」という単行本を刊行します。400ページを超えちゃいました。