ファンク誕生60周年の記念すべき2024年にこそ聴きたい
黒人音楽界の静かなる首領、ジョージ・クリントン
text = QB Maruya
ファンクというジャンルが誕生したのは、今から60年前に当たる1964年の夏。もっとも、その記念すべき年に新境地「ファンク」に到達したのはゴッドファーザーたるジェイムズ・ブラウンほぼ一人だけだ。では、Pファンク軍団のマスターマインドたる我らがジョージ・クリントン師匠は?
ドゥーワップ起源のソウル・ヴォーカル・グループ「ザ・パーラメンツ」を率いるリーダー兼ソングライターとして、いろいろ苦労している最中であった。ちなみに、ここでいう「リーダー」とは「リードシンガー」ではない。90年代には評論家のネルソン・ジョージによって「あの人は歌えないから」と断言されたし、日本の音楽評論界でも彼のヴォーカル・スタイルを評して「変態情けな唱法(へんたいなさけなしょうほう)」という表現があったくらいで、我らがジョージ・クリントンが自ら単独で歌唱面のリードをとる場面はレアだ。だが、この「一歩後ろに下がった立場で物事を見る能力」こそ、その後の数十年間を決定づけることになる。
ともかく、我らがジョージ・クリントンが本格的にファンク・アーティストへの転身を遂げるには、1974年まで待たねばならない。つまりファンク誕生の10年後だ。この頃、契約面や金銭面のさまざまな逆境を乗り切る目的もあり、先に挙げたヴォーカル・グループ「ザ・パーラメンツ」は「パーラメント」と「ファンカデリック」という2つのバンドに発展していた。「2つのバンド」とはいうものの実質的に同一メンバー。だが、音楽的にはファンクを突き詰めたのがパーラメント、ロック寄りなのがファンカデリック、両バンドと関係者を含む集団の略称であり音楽性の呼称でもあるのが「Pファンク」である。なんにせよ、この1974年にリリースされたパーラメント名義のセカンド・アルバム『Up for the Down Stroke』こそが、我らがジョージ・クリントンが本格的にファンク道を歩み出したマイルストーンと言っていいだろう。それは今から50年前の夏のことであった。
さて、そんな70年代の音楽シーンを思い返してみよう。既にファンクは隆盛を極めていた。たとえば、ウォーの1972年アルバム『The World Is a Ghetto』やオハイオ・プレイヤーズの1974年アルバム『Fire』は、どちらもUS Billboard 200(いわゆる総合アルバム・チャート)で1位を獲得。決してアンダーグラウンドではなく、人気ジャンルだったのだ。
では、我らがジョージ・クリントンは?
1975年末に出たパーラメントによる『Mothership Connection』でブレイク!……したものの、US Billboard 200では最高13位。ウォーやオハイオ・プレイヤーズと比べるとだいぶ見劣りすると言わねばならない。
しかし、数十年が経過した今となっては事情が違う。わたしとてウォーやオハイオ・プレイヤーズを愛聴してきた身だが、忘れたくても忘れられないほどのインパクトを後世に残したのはどちらだろう? ウォーやオハイオ・プレイヤーズか、それともPファンクか。
件の75年作『Mothership Connection』から、パーラメントの曲の基本は、正義のマッド・サイエンティスト「ドクター・ファンケンシュタイン」と、そのクローン/エージェントたる「スター・チャイルド」が活躍するSFストーリーテリングを音楽で展開……という、そうとう風変わりなものとなった。だが、このストレンジさこそが、人々の心に引っかかりまくっているポイントの一つでもある。
続いて76年の『The Clones of Dr. Funkenstein』、77年の『Live: P-Funk Earth Tour』と『Funkentelechy vs. the Placebo Syndrome』、78年『Motor Booty Affair』、79年『Gloryhallastoopid』とコンスタントにアルバムをヒットさせるバンドとなったパーラメント。とはいえ、US Billboard 200での最高到達点は先ほど言及した13位だが(しかし、大切なのは目先のランキングより、何十年も続く定評である)、ロック寄りなファンカデリックの方は遅れて78年の『One Nation Under a Groove』と79年の『Uncle Jam Wants You』という2大傑作アルバムで、その人気を確立するに至った。
総じてパーラメント/ファンカデリックはファンクというジャンルでも指折りの人気グループでありながら、常に異様であり異質であり異分子であり続けた。それゆえか、1980年代に入る頃には「大所帯ファンク・バンドといえば東のクール&ザ・ギャングと西のアース・ウィンド&ファイアー、そして裏街道を行くPファンク」というような定評が確立されるのであった。
もともとパーラメントの契約レーベルであるカサブランカ・レコーズの社長に強く推奨された結果、自身をドクター・ファンケンシュタイン(他)としてキャラクター化し押し出すことになったものの、我らがジョージ・クリントンはあくまで「リーダー」であって「リードシンガー」ではない、先に書いた通り。彼はスタジオでもステージでも、人心を掌握し、ミュージシャンの適材適所な配置を心がけ、最善のケミストリーを生み出そうと心がけるナチュラルボーン・プロデューサー気質の持ち主だ。中国史でいえば漢王朝を築いた劉邦(紀元前256~195年)のような。現場で能力を発揮するのは参謀や将軍、大臣や外交官だとしても、そうした人材を抜擢するのは誰だ? というわけで、真に偉大なリーダーに必要なのは、人の才能を見抜く目なのである。
だからこそ、我らがジョージ・クリント率いるパーラメント/ファンカデリックは今も優秀な音楽集団であり続けているのだ。目利きのリーダーのもと、メンバーの新陳代謝を続けつつ。そんな彼らのステージ、ファンク誕生60周年(そして『Up for the Down Stroke』から50年)たるこの2024年にこそ目撃しておきたいと思う。
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LIVE INFORMATION
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Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2024
2024 9.21 sat., 9.22 sun.
Open12:00pm Start1:00pm
https://bluenotejazzfestival.jp
★PARLIAMENT FUNKADELIC feat. GEORGE CLINTON は 9.21 sat. に出演!
▶︎9.21 sat.
NAS / PARLIAMENT FUNKADELIC feat. GEORGE CLINTON / MISIA & ⿊⽥卓也BAND / TANK AND THE BANGAS / .ENDRECHERI.
▶︎9.22 sun.
CHICAGO / MARCUS MILLER / NILE RODGERS & CHIC / SNARKY PUPPY / CANDY DULFER
丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ)
早稲田大学卒業後、”ストリート寄り”の仕事から老舗ブラック・ミュージック雑誌『bmr』編集部に転職。現在は出演・執筆のほか、ジョージ・クリントン御大のトークの相方を二度にわたって務める!という奇跡を経て、オリジナルトークイベントの開催を主務とする。テーマは世界史やSF、音楽や映画、人種差別やLGBTQ+等。