TOKYO・ARIAKE ARENA
2024 9.21 SAT., 9.22 SUN.
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【FEATURES】NAS

伝説的なデビュー作の発表から30年目を迎えるナズ
円熟期に到達してもなお進化を止めぬ彼の魅力とは

伝説的なデビュー作の発表から30年目を迎えるナズ
円熟期に到達してもなお進化を止めぬ彼の魅力とは

text = Shiho Watanabe

 

ヒップホップの黄金期とも称される90年代の初頭、歴史を変えるほどのインパクトを持つ名盤が発表された。それが、ナズの1stアルバムである『Illmatic』(1994)だ。ナズの父親はブルース・ミュージシャンのオル・ダラであり、『Illmatic』にはDJプレミアやラージ・プロフェッサー、ピート・ロックといった名うてのプロデューサーたちが磨き上げたサンプリング・ビートが収録されている。ザ・ギャップ・バンド、ジョー・チェンバース、アーマッド・ジャマル…まるでその奥深さを辿るかのように、往年のジャズやファンクのレコードを緻密に、そしてヘヴィに繋ぎ合わせたビート。そこに、煤けたコンクリートの匂いが漂うようなナズのラップが乗る。アルバム制作時、わずか19歳だったナズは、『Illmatic』の中で地元・ニューヨークのクイーンズブリッジの様子を克明に、そして詩的に表現してみせた。彼の住まいはプロジェクトと呼ばれる低所得者用の団地であり、そこでの生活はタフなものだった。ゲットーのストリートから見た生々しいレポート。眠ることすら厭い、今日という日を生き延びねばならない。ナズのラップは、フロウとライミングの腕前はもちろんのこと、彼が持つ<視点>そのものが高く評価され、いくつものメディアによって”オールタイムベスト”の称号が与えられているほか、<文化的、歴史的、または芸術的に重要な作品>として、ルイ・アームストロングによる“When the Saints Go Marching In(聖者の行進)”といった録音物ともにアメリカ議会図書館にも収蔵されている。

ラッパー、ナズが稀有な理由は、一枚の、そして完璧なクラシック・アルバムを作り上げたことだけではない。これまでに、実に17枚ものオリジナル・アルバムを発表し、まるで芳醇なワインやウイスキーのように、年齢を重ねるとともに自分のパッションと哲学をアルバム作品としてパッケージし、世に放ってきたこともまた、彼を唯一無二のラッパーたらしめている大きな理由だ。近年のナズの活動において、特筆すべきは現在に至るまでのリリース・ペースとそのクオリティだろう。なんとナズは2020年以降の4年の間で6枚ものアルバムをリリースしてきた。『King’s Disease』三部作、『Magic』三部作と呼ばれる計6枚で、その全てが1987年生まれのプロデューサーであり、ケンドリック・ラマーやカニエ・ウエストらへの楽曲提供でも知られるヒット・ボーイのプロダクションによるもの。アルバムの中には、90年代に勃発したヒップホップの東西抗争についての描写や、80年代の地元クイーンズを振り返る描写、そして30年に渡って築き上げたキャリアを次世代に説くような金言までが溢れ、今のナズにしか書けない世界観が広がる。2020年に発表した『King’s Disease』では翌年のグラミー賞においてベスト・ラップ・アルバム部門を受賞し、これはナズの長いキャリアにおいて初めてのグラミー・トロフィーでもあった。ラッパーとして、いまだ最前線をキープするその才能を、多くの者に改めて認めさせた出来事だった。

2023年にカリフォルニアのナパ・ヴァレーで行われたBlue Note Jazz Festivalにヘッドライナーとして出演したナズは、ニューオーリンズ出身の名バンドであるザ・ソウル・レベルズの演奏とともに、「Nas Is Like」や「If I Rule The World」、「One Mic」などの代表曲を織り交ぜながら30曲あまりをパフォーマンスした。また、『Illmatic』の30回目のアニヴァーサリー・イヤーとなる今年は、オーケストラ編成の特別パフォーマンスを披露している(ちなみに、ナズにはこれまでにも何度かオーケストラと共演している)。ますます重みを増すナズのラップが、8年ぶりに開催されるここ日本でのBlue Note Jazz Festivalでどのように披露されるのか。一言一句を聴き逃せないエクスクルーシヴなライブになりそうだ。

 
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LIVE INFORMATION
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Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2024
2024 9.21 sat., 9.22 sun.
Open12:00pm Start1:00pm
https://bluenotejazzfestival.jp
★NASは 9.21 sat. に出演!


▶︎9.21 sat.
NAS / PARLIAMENT FUNKADELIC feat. GEORGE CLINTON / MISIA & ⿊⽥卓也BAND / TANK AND THE BANGAS / .ENDRECHERI.
▶︎9.22 sun.
CHICAGO / MARCUS MILLER / NILE RODGERS & CHIC / SNARKY PUPPY / CANDY DULFER

渡辺 志保(わたなべ しほ)
1984年、広島市出身。これまでにケンドリック・ラマーやニッキー・ミナージュ、コモンら海外アーティストほか、国内のアーティストへのインタビュー経験も多数。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門」(NHK出版)などがある。block.fm「INSIDE OUT」などをはじめ、ラジオMCとしても活動する他、イベントの司会業なども行なう。現在、ポッドキャスト番組「渡辺志保のヒップホップ茶話会」配信中。